セラピストにむけた情報発信


 文献紹介1:認知科学・認知心理学の実験課題を理解するための本



 ここでは認知科学や認知心理学の研究において使用される”実験課題”について,気軽に体験できる本,および専門的に学ぶことのできる本を1冊ずつ紹介します.ともに2006年以降に出版された最新本です.

1.酒井浩二,森下正修,松本寛史(著),2007,今すぐ体験!パソコンで学ぶ認知心理学実験.ナカニシヤ出版

2. JM フィンドレイ・ID ギルクリスト(著),本田仁視(監訳),2006, アクティブ・ビジョン−眼球運動の心理・神経科学

  1では,パソコンを使って代表的な実験課題を体験できます.実験参加者の立場から実験課題を理解することで,その実験課題を用いた研究論文の本質的な意味について,理解が進むと期待されます.

 2ではより本格的に,実験課題やその課題を通して明らかになった知識を学ぶことができます.内容的にかなり高度なものも含まれますが,視覚的注意に関して正しく伝えようとする著書の努力,および日本語として読みやすい文書を作ろうとする訳者の努力が,うまく形になっています.場合によっては,あまりにもセラピストの方々が日々抱える問題とかけ離れた話題に,認知科学に対して失望を覚える人もいらっしゃるかもしれません.しかし個人的には,現代のリハビリテーション領域では認知科学が過度に美化されすぎていることを懸念しており,この本を通して,リアルな認知科学の話題を正しく理解していただきたいと考えています.

 最近では多くのセラピストの方々が,運動イメージやミラーニューロンなど,認知科学における重要なトピックスについて非常に豊かな知識を有しています.認知科学に興味のあるセラピストの方々と話をする度に,その博学ぶりにに驚かされます.多くの方々にとって,認知科学を学ぶ主たる手段は,概論書あるいはレビュー論文を読むことです.そのため,代表的な研究論文がどのような実験結果を報告し,どのような結論を導き出したかについては概ね理解しているものの,その論文がどのような実験課題を用いたかについては,必ずしも理解できていない場合が少なくありません.また概論書によっては,実験課題の内容が理解できないと文書の意味が理解できない,というものも散見されます.とはいえ,多忙なセラピストにとって,原著論文に1つ1つ当たって課題を確認することは,現実的ではありません.ここで紹介した2冊の本を通して,効率よく実験課題を理解していただければ幸いです.


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